pain clinic

ペインクリニックとは

日本は世界有数の長寿国ですが、国民の大半は腰痛や頭痛など何らかの痛みを抱えて日常生活を送っています。もともと痛みは、身体に生じた異常事態を知らせる警告反応として大切な役割を持っています。実際、病院を受診する一番の理由は「痛み」です。ところで、多くの痛みは原因となる病態の改善とともに軽減消失します(主に急性痛として分類されます)。しかし、警告の役割を終えた痛みがいろいろな理由で長く存在すると、より強い痛みや新しい種類の痛みが加わり、病気の部位の器質的異常や機能低下だけの問題だけでなく身体的・精神的・社会的要因が複雑に関与し始め、私たちの生活の質(Quality of life:QOL)を低下させることになります。これが慢性痛と言われる状態です。このような状態に陥った時はもちろんのこと、陥りそうな時には、身体的・精神的苦痛を適切に和らげ消失させることが重要になります。また、がんを患うと急性痛のみならず慢性痛が複雑に入り組んで治療に難渋することとなり、患者さんにとって痛み治療はやはり重要な求めとなります。
(日本ペインクリニック学会HPより)

ペイン(Pain)は英語で痛みの意味です。頭痛、肩こり、五十肩、膝痛、腰痛、坐骨神経痛、帯状庖疹、三叉神経痛などの、主として痛みを和らげる医院と思って頂ければ良いと思います。痛みを和らげる方法としては、神経ブロック法(神経の伝達を遮断して痛みを消失させる方法で100種類以上のブロックの手技があります)・理学療法(リハビリテーション)・電気刺激法・東洋医学療法・心身医学療法・薬物療法などがあります。これらをうまく組み合わせながら、痛みが消失することを目標にして治療を進めて行くわけです。この中心となるのは、神経ブロック療法です。なぜならば、最も早く痛みを消失させる方法だからです。従来の医学は痛みを診断の重要因子として重視する反面、痛みの治療を軽視してきた事は否定できません。そのため、慢性の痛みに悩む人が激増してきています。それは痛みの治療があまりにも薬物療法に傾きすぎ、この方法に限界があったからです。加えて、薬物が効かなかったら手術療法といわれてきましたが、手術療法にも大きな限界があります。このように従来の治療法を薬物療法と手術療法に大別するとすれば、神経ブロック療法はまさに第3の療法であり、前二者の欠点を補い、行き詰まりを打開し、より効果的な医療を施すのが、神経ブロック療法を主体としたペインクリニックの目的です。これが、ペインクリニックは医学界で最先端の分野と言われている理由です。先ほど、ペインクリニックは主として痛みと書いたのは、必ずしも痛みだけではなく、顔面神経麻痺や顔面痙攀、突発性難聴、網膜血管閉塞症、しもやけ、多汗症、不眠症、更年期障害、自律神経失調症、アレルギー疾患など様々な疾患がその適応となるからです。

神経ブロック療法とは

ペインクリニックの主幹をなす神経ブロックとは、手術時の伝達麻酔と同じで次のように定義づけられます。

「神経ブロックとは、皮膚の表面より針を刺し神経(神経節)のすぐそばあるいは直接神経(神経節)内に針先を誘導し、刺入した針より局所麻酔薬や神経破壊薬を注入して化学的に神経伝達機構を一時的あるいは半永久的に遮断する事を言う」

ところで局所麻酔薬の効果はせいぜい数時間ほどです。ですから、神経ブロックを理解していない方からは、「少しの時間だけ痛みが消失してもすぐ痛みが戻ってしまうのだから無駄なことだ。」と良く言われます。ところが神経ブロックを行うと、薬剤の作用時間がきれているのに、それより長い時間除痛が得られることがほとんどです。その作用機序は、次のように考えられています。 

外傷や手術、あるいは帯状疱疹などの疾患による痛みが発生すると、これらは知覚神経を刺激し、後根、脊髄、脊髄視床路、視床を経て中心後回へと刺激が伝えられ、痛みとして自覚されます。一方、痛みの生じた局所には脊髄反射路を通じて、障害部を支配する遠心性神経(運動神経と交感神経)の興奮、それに基づく筋の反射性攣縮と血管の収縮が起こり、そのために乏血、酸素欠乏、代謝異常が発生します。これらの酸素欠乏、代謝産物が誘因となって発痛物質が生成され、これがまた知覚神経を刺激します。すなわち、ひとつの原因を基にして生じた「疼痛反応の悪循環」が形成されたことになります。加えて疾患や痛みに対する不安、心配、恐怖は、さらに交感神経を刺激し悪循環を促進します。

もし原因が短時間で取り除かれれば、この悪循環も直ちに消失しますが、ある時間以上続くと、引き金になった原因疾患はすでに治癒してしまっているのに、悪循環のみが残ってしまいます。神経ブロックは、この痛みの悪循環をいずれかの部位で断つことにより、痛みの治療として特異な効果を発揮するのです。比較的効果時間の短い局所麻酔薬でのブロックでも、この間に痛み刺激を遮断し、障害部の筋攣縮や血管収縮を除き、生体のホメオスターシスを改善することにより、神経遮断作用が消失した後も、すでにブロックが行われる前と異なった状態に回復しているのです。たとえば、肩や腰の痛みが、1回の神経ブロックで劇的に長期間の症状改善をみることは少なくありません。

また、交感神経ブロック(星状神経節ブロックなど)により、血管拡張がおこり血流が改善することから、痛みの治療だけでなく、顔面神経麻痺、突発性難聴、網膜血管閉塞症、耳鳴、めまい、アレルギー性鼻炎など様々な疾患に適応があるのです。以上のように、神経ブロック療法は決して短期間の効果を期待しているものでは無いと言うことを理解して頂ければ、幸いです。ただし、未だにブロック注射は骨を弱くするとか、副作用があるとかいう間違った噂が拡がっているのが現状で、これから如何にそのような誤解をといていくかが私の大きな仕事となりそうです。

痛みの悪循環

痛みが起きるメカニズムはこのようにいくつかあるのですが、一度痛みが出てしまうとその種類にかかわらず、痛みそれ自体が悪循環を起こしてしまうことがあります。それぞれの痛みについてもう少し詳しく説明させて頂く前に、この「痛みの悪循環」について説明させていただきます。

痛みは体の緊張を高めます。これは交感神経という、自律神経の中で体の緊張を高める神経が興奮するからです。そのため血管が収縮し、筋肉の緊張も高まるためさらに血流が悪化します。血流の低下が持続すると徐々に組織が酸素欠乏となり、また新陳代謝が悪化し組織が障害されてしまいます。

組織が障害されると各種発痛物質が産生され、これらが痛みを誘発するようになります。痛みがあれば必ずこのような悪循環になるというわけではありませんが、悩みごとと一緒で、一度なってしまうとなかなかここから抜け出せなくなってしまいます。

さらに、必ずしも痛みだけが原因でこの悪循環が起きるわけではなく、知覚神経の異常興奮(神経障害)や筋の過緊張(肩こり等)、血管攣縮や末梢循環障害(糖尿病)などからこの悪循環に陥ってしまうこともあります。慢性的な痛みがある場合には、多少なりともこのような悪循環が起きている事が多いようです。

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